第118景 「王子装束ゑの木大晦日の狐火」
(安政四年(1857)九月 冬の部)
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  この絵は、「大はしあたけの夕立」「深川洲崎十万坪」とならんでシリーズの三役といわれ、 日本版画史上に傑出した作品ともたたえられている。
  星の光の中で遠景に描かれている森に覆われた小高い岡が、関八州の稲荷総元締、王子稲荷社 である。そこから稲荷社門前の東方に広がる田圃の中に一本の大榎が立っていて、近景は 大榎の下に狐が集まっているところである。淡い肌色の狐たちは、狐火を吐き出している。 大榎の傍らには稲叢、大榎の後ろには松がある。中景は集りつつある狐の大群である。
  ヘンリー・スミス教授(「広重名所江戸百景」岩波書店)によれば「この絵は、広重自身の 創作ではない。明らかに江戸名所図会を下敷きにしている。・・・江戸名所図会の仲間達に 比べると、この狐達には新年の儀式に望む威厳が備わっている」。確かに比べてみると、 雪旦の狐は、じゃれあっているが、広重の描いた狐は、品格を持って凛然としている。
  大榎の枝に雲母摺りを施して星明りを表現し、夜空の星は彫抜きの技法が用いられている。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による