第117景 「湯しま天神坂上眺望」
(安政三年(1856)四月 冬の部)
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  湯島天神のある本郷台地へは、女・子供は勾配の緩やかな女坂を北から、男は真直ぐで 急な男坂を東から登った。女坂を登り詰めた坂上から北方の景色は素晴らしく、池之端の町屋 、不忍池、池の中に突き出した中島、上野の山の清水堂、寛永寺の大伽藍、さらには谷中あた りまで望むことができた。この絵は、その雪景色である。
  遠近の神社仏閣、茶屋の提灯などの赤色との対照が鮮やかである。近景の積雪は極めだし技法 により盛上がって表現されている。
  雪が止んで両方の坂を登ってくる人が、みな頭巾をかぶっている。当時の湯島の場所柄から、 女姿の男娼かと勘ぐる人もいる。
  広重は『絵本江戸土産』にも同じ画題で坂上からの眺めを描いている。その書込みには「石階の 上に至りて遠見すれば東叡山の堂社は手に取如く不忍弁天池中の風光掌(てのうち)に在が如し」 とある。今は、もと岩崎邸跡に湯島ハイタウンがそびえ立ち池が消えた。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による