第112景 「愛宕下藪小路」
(安政四年(1857)十二月 冬の部)
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  広重の画は加藤越中守上屋敷の北端に立ち、正面に愛宕山、左に伊勢菰野藩土方備中守 上屋敷を眺めながら、雪の白と桜川の青を対比させている。雪はしんしんと降続く。
  川をまたぐ手前の小屋は辻番所である。画面奥の赤い門は真福寺山門で、その左の小屋も 辻番所である。川沿いの道は愛岩下広小路に通じ、増上寺に達する。手前から向うに歩く 四人の前方に、小さく子犬が描かれ、五人目の男は子犬と向合っている。
  手前は竹藪の竹が雪を被って重たげにしなっており、空には雀が三羽飛んでいる。
  桜川の護岸は石積が奇麗に組まれ、岸には標石が一定間隔に置かれている。
  竹藪のあった近江水口藩加藤家上屋敷の加藤家を、宮尾しげをの記述に始まって、 岩波本ヘンリー・スミスの引用、直近の小学館版「岩崎コレクション 名所江戸百景」に 至るまで、加藤清正の末裔としているが、これは完全な誤りである。清正の加藤家は子の 忠広が改易され断絶した。水口藩加藤家の祖が、もう一人の賎ヶ岳七本槍、秀吉の馬回り だった加藤嘉明であることは江戸時代の歴史、各藩史を一読すれぱ自明である(国際浮世絵大会2008にて発表)。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による