第101景 「浅草田圃酉の町詣」
(安政四年(1857)十一月 冬の部)
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  遊女屋の窓から格子越しに鷲神社詣での人の波を見ている。窓の外は酉の市に出かけて 熊手を買い、担いで帰る人々の行列が描かれている。鷲神社は障子の右の陰にあたる。
  部屋の主、部屋持ち身分の遊女も客を誘って酉の市にでかけ、熊手型の簪を買って帰った 様子が窺われる。外は寒々しい晩秋。富士山もすでに雪を冠っている。京町二丁目の遊女屋 から見たものだろうか。出窓には茶碗と羽模様の手拭が置かれ、屏風の陰には簪の向うに畳んだ 御事紙が覗いている。左端の屏風裏には鳥襷(トリダスキ)紋が施されている。
  ヘンリー・スミス教授(「広重名所江戸百景」岩波)の記述を要約すると、「絵は客の帰った 後の様子である。遊女は顔を洗い口をすすぎ、外気を部屋に取り入れて息抜きしている。 この絵の平静さは、遊女のほっとした気分の現われであり、外のざわめきとは対照的である。 また窓の下の腰紙には雀の絵が描かれている。この吉原雀は見るだけで登楼しない素見・ひやかし、 また広重自身であり、その絵を見ている我々自身でもある」となる。
  見方によっては、猫は遊女自身であり、静かに格子越しに外を見ている、とも解釈できる。 「猫の姿」は「きめ出し」という、紙の表面を盛り上げ、半立体的に見せる浮出しの技法が用い られ、こんもり盛り上がっている。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による