第99景 「浅草金龍山」
(安政三年(1856)七月 冬の部)
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  雷門から正面に仁王門、右に五重塔を望んだものである。純白に、赤、藍、紫、黄の色 を巧みに配した美しい雪景色である。普段の喧騒を避けた静かな浅草寺の境内を描いてい る。重い雪を踏しめて歩く参詣者の足音までも聞こえてきそうである。
  広重が「名所江戸百景」を描いた目的は安政2年(1855)の大地震からの復興を描くこと にあるという説(原信田実)があり、それによれば、この絵の改め印(版下で出版許可を 取る)が七月だが、雪景色にしたのには意味があり、五重塔の曲がった九輸が修復された ことを雪の白と朱塗りの赤という紅白の吉祥で祝ったものであるとする。
  しかし夏に雪景色の錦絵を発売することは団扇(ウチワ)絵にも例がある。眺めるだげで涼味 を誘われて顧客も喜ぶ販売推進策、と見るのが素直であろう。
  五重塔は現在とは異なり観音堂に向って右側にあった。枝の冠雪や屋根の積雪には空摺 りという紙に無色の凸凹を付ける技法が用いられ量感を表現している。
  絵の雷門は、明和4年(1767)の焼失後、寛政7年(1795)に再建された。「志ん橋」の提灯 は、新橋の屋根職人、屋根屋三左衛門が奉納したものである。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による