第94景 「眞間の紅葉手古那の社継はし」
(安政四年(1859)正月 秋の部)
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  真間山弘法寺の境内にあった楓の木を前景におき、二股になった幹と幹の間から手古那 の社を左下に見下ろしている。その右手前方の小川に架かった橋が継橋である。遠景の山 は南を向いているこの画面で、鋸山を右手に従えた千葉の房総半島の山なみと言う見方も あるが、山容から言って筑波山であることは疑う余地がない。広重があえて実景を壊して いる点については、絵の中に「万葉集」のイメージを描き入れたかったからではないかと ヘンリー・スミス氏は書いている。「万葉集」巻十四の手古那に関する歌(3384〜3387)の 後ろに、常陸国の筑波山をめぐる歌(3288〜3396)が載っているので、絵の中に筑波嶺を引 用することで、真間と筑波嶺との文学上の距離の近さを示そうとしたのであろうというの がスミス氏の見解である。
  この絵はクローズアップされた紅葉の丹色が鮮やかな筈だが、丹色に黒ずみが出ている のは、残念ながら顔料の酸化の結果であろう。(第88景「王子滝の川」も同様)
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による