第81景 「高輪うしまち」
(安政四年(1857)四月 秋の部)
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  車町の西側には車置場や牛小屋が並び、台地の中腹には大名の下屋敷や泉岳寺など寺 社があり、景勝の地だった。東側は海で何もなく、海上遥かに房総の山々が眺められる のだが、広重は西倒には目も止めず、東側の海岸の平坦なる風景を描いている。しかも、 晴れた日には見えるはずの房総半島の遠望もない。
  夕立が去ったあと、空には虹がかかり、左には深川が見える。牛車の向こうには品川沖 に築かれた御台場が並んでいる(左から第7・第3・第6台場)。沖には碇泊中の船の帆柱 が林立して白帆点綴する海上を望む図であるが、牛町にちなんだ牛車の車輪を画面処理に 効果的に使って、対比の構図をとっている。全体に静かな風情が描かれている。
  路上には西瓜の皮が散乱し、夏の季節感を表現している。旅人が捨てたと思われる草鞋 と戯れる子犬を配し、江戸の生活が感じられる。
  石井研堂氏は広重が江戸を描いた1,083枚を分析したが、高輪の作品は53枚で両国 (65)・隅田川(60)についで第3位を占める。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による