第80景 「金杉橋芝浦」
(安政四年(1857)七月 秋の部)
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  画の右手は芝浦の海で、江戸前の魚が捕れた。左手遠くに見える海岸線は浜御殿(浜離宮) で、その向こうに築地本願寺の大屋根が見える。落語「芝浜」に出てくる魚屋の熊もこの 辺りに住んでいたとか。今も屋形船や遊漁船は繋留されているが、その向こうは鉄道線路 でその先は海だった。いまでは、ビルや線路に遮られ、海も白帆も見えなくなった。
  画の左の高い竿は寺の手洗い用に寄進する柄杓と手ぬぐいを組み合わせてあり、赤い幟 にある井桁と橘は池上本門寺の紋どころ、その下のお題目「一天四海皆歸妙法」は全世界 の全ての人をあまねく妙法蓮華経の教えに帰着させるという、日蓮の布教の根幹であり、 念願となる目標という。
  橋の上の人波を研究したヘンリー・スミス氏によれば、手前は江戸から出て、本門寺、久遠寺に 向かう群衆、向う側は参拝を終えて江戸に戻る人の列という。理由は竹竿が左に靡いてい るので、持ち手は右に進んでいると判断できる。橋上の傘の間にうちわ太鼓が二つ見える が、撥は右手、太鼓は左手に持つため、持つ人は左に向かっていると解釈できる。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による