第79景 「芝神明増上寺」
(安政五年(1858)七月 秋の部)
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  広重の「名所江戸百景」では人物は小さく描かれることが多く、表情まで分かる作品は5 枚しかない。特に、人物群を主題にした画はこれ1枚である。(第74景「大伝馬町こふく店」は出 入り職人とお店が同格に描かれている)題箋に「江戸百景餘興」と記されているが、こうし た表示は第78景「鉄砲洲築地門跡」と2枚しかない。
  江戸百景では江戸あるいはその近郊の住民が描かれているため、お上りさんは異質な存 在である。一行の男性は股引をはき、女性は脚絆を着けている。若い女性は姉さんかぶり である。菅笠やござを持つのも旅姿である。上に羽織るのは上っ張で、ほこり除けのため に着た。左後ろの僧侶の一群は増上寺から托鉢に出かける修行僧である。いつも七つ時(午 後4時頃)に托鉢に出かけるので「七つ坊主」と呼ばれ、増上寺独自の風習だった。
  左奥は下馬札の向うに桜川の小橋の向うに増上寺大門が建ち、三解脱門、本堂と続く。 背後は諸寺院と森。右側は芝神明宮の社殿である。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による