第78景 「鉄炮洲築地門跡」
(安政五年(1858)七月 秋の部)
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  画は明石町の沖から築地本願寺本堂の大屋根を見る。中景に明石橋が隠れている。明石 町の沖に並ぶのは波消し目的の2列の石積である。画の左には今しも投網を拡げた漁師が 描かれ、その手前では投網の準備に余念がない。釣船、石積上の釣人はハゼ釣りか。手前 の帆船の帆布には布目摺りが丹念に施されている。
  なお、築地本願寺本堂は安政三年(1856)8月の暴風雨で倒壊し、万延元年(1860)11月に 再建が完成したとの記録があることから、この画の時点では工事中の筈だという批判もあ る。しかし浮世絵は商品である。消費者の嗜好は当然完成図であり、描手の広重にも刷込 まれている風景だから、復旧工事の完成予想図が描かれても不思議はない。横に連なる雲 によって現実と未来とを分離したと考えられないだろうか。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による