第74景 「大伝馬町こふく店」
(安政五年(1858)七月 秋の部)
--------------------------------
  広重の画で大丸呉服店の前に差し掛かった行列は「棟梁送り」という家の棟上げ後に 大工、左官などが棟梁を自宅に送る儀式である。現在でも家の棟上げに際しては地元の 氏神から神主を招いて、工事の安全や建物の息災を祈るが、行列の人々が担いでいる道具は その神事で使われたものである。
  ヘンリー・スミス教授の解説によれば、先頭は大工の棟梁で鳥帽子をかぶり、紋付きの 素襖を着け、武士の礼装をしている。後ろに続く鳶の頭、左官、屋根職、大工なども裃を 着けて武士の礼装姿である。棟梁が持っているのは大幣で、鏡を中心に日の丸の扇を 3本繋ぎ合わせたものに御幣を3本差し、女性の髪結いの道具である櫛、赤い手絡、かもじを あしらい五色の布を吹き流しにしている。女性の髪結い道具は、古代に若い女性を人柱にした 習わしを象徴しているという。次の二人が担ぐのは破魔矢で、鶴と亀の彫り物で飾られ、 それぞれ天と地を表している。
  火事の多い江戸の町では、始終こうした棟梁送りが行われていたのであろう。流行っている 大店の前を酒が入って縁起のいい行列が通り、ともに勢いの良さが周囲に広がる光景である。
-------------------------------
「東京シティガイド江戸百景グループ」による