第70景 「中川口」
(安政四年(1857)十二月 夏の部)
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  絵では船番所の上に視点を定めて南東、船堀川方向を望んでいる。手前が小名木川で左 に北岸の番所の屋根が見える。直交するのが中川、右手が南、河口方向である。小名木川 の延長上にあるのが船堀川。番所の前の小名木川では江戸を出る船、江戸に入る船、2艘の乗合船 がすれ違ったところだ。江戸を出る船ではどの乗客も番所に顔を向けている。船頭の指図 であろう。乗客が一人でも怪しい振舞をすると全員取調べとなり、皆が迷惑するからだ。 普通は「通ります通れ葛西の鸚鵡石」「中川は同じ挨拶して通し」などの川柳にもあるよう に、船頭が「通ります」というと、番人が「通れ」と答えるのが通例だったらしい。   江戸に入る船は許可が出たらしく、船番所に背を向げた乗客もいる。
  遙か先の船堀川にも江戸発、江戸行きの2艘がすれ違おうとしている。中川には筏を操 る川並がそれぞれの筏に乗っている。また中川の東岸近くには釣糸を垂らす釣船が2艘い る。船堀川沿いに並ぶ苫をかぶせた船は行徳からの塩を運ぶ荷船である。
  広重はこの狭い水域に立働くさまざまな船の姿を描き分げている。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による