第68景 「深川八まん山ひらき」
(安政四年(1857)八月 夏の部)
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  永代寺の山開き(庭園開放)で林泉の様子が描かれている。ピンクの桜と赤いツツジが庭園を彩っている。 桜を八重桜としてもツツジと同時に開花するのを見るのは難しいが、山開き期間中の開花を両方描込んだとの 解釈も出来る。日本画の伝統として時間的にずれる情景を一枚に描込むこと(異時同図法)があり、広重の 近江八景にも例がある。
  「江戸名所図会」の「永代寺山開」では庭園の中央に松の生茂る山が描かれ、「甲山」と名称が記載され ている。これが広重描く左奥の山に他ならない。前述のヘンリー・スミス教授はこの山を富士塚と混同しているが、 明らかな間違いである。永代寺の庭園が現・深川公園の広場の位置にあったのに対して、富士塚は約250メートル 離れた現・数矢小学校近辺(江東区教育委員会「江東区の文化財」では「富岡1-18付近」、現在立体駐車場)にあった。
  富士塚は富士信仰の隆盛に伴い、富士講中の人びとが築造し、富士山の代わりに登って参詣した。 「江東区の文化財」では、富岡八幡宮の富士塚は当初、大山信仰に由来し、石尊山とも呼ばれ、享保7-8年(1722-23)に 築造されたが、文政2年(1819)に築山が高さ2丈(約6m)、全囲50間の規模で再築され、富士浅間神社の勧請の時期も 一致することから、この頃富士山に改称されたと考察している。しかし昭和40年(1965)整地され姿を消した。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による