第65景 「亀戸天神境内」
(安政三年(1856)七月 夏の部)
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  満開の藤の花を近景にクローズアップした作品。中央に描かれる太鼓橋は規模が大きい ので男橋であり、中景の松の木は中の島でおることから、この絵は東側から男橋を描いた、 と判断できる。ヘンリ一・スミス教授の見解でもある。遠景は池の畔、藤棚の下に連なる 茶店である。橋の取付や池岸の石組、水面近くと中空を飛翔する燕なども味わいたい。
  ところでこの絵、太鼓橋の下側に違和感を感じないだろうか。初摺りでは、摺り師との 間に何らかの手違いが生じ、空を池の色で摺ってしまったものだ。後摺りでは修正されて いる。ただ、江戸東京博物館が主導した「名所江戸百景」の復刻では、初摺りのままに再 現された。人文社版に採られている旧東海銀行コレクションは修正された後摺りである。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による