第60景 「浅草川大川端宮戸川」
(安政四年(1857)七月 夏の部)
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  一般に隅田川は鐘ヶ淵より下流の名称で、上流は荒川。浅草川・宮戸川は浅草付近の隅 田川の別称。手前は垢離場(コリバ)で水垢離を終えた大山講の講中が画面左の梵天(多くの御 幣を束にして棒の先に刺したもの)を掲げて出発するところ。 船上説(ヘンリー・スミス)と橋上説(「浮世絵を読む5広重」と太田記念美術館「新・今昔 対照」)があるが、後摺りの題名が「両国船中浅草遠景」であるから、船上説が自然だろうか。 右の船上も梵天を立て、先達を務める修験者が法螺貝を吹く。講中一行が柳橋の船着き場を目指すところだ。
  垢離場は両国橋左岸下流側で、岸から階段があり、川底に石が敷いてあった。大山詣で の前に講中全員が垢離場におもむき大声で唱文を唱えながら身代わりの藁しべを流した。 水垢離は7日間以上行うことが必要で、水垢離を取った後は白衣に着替え、町内に御幣を 一軒ごとに配って歩き、大願成就と墨書した木太刀を携えて大山へ奉納に向った。大山奥 の院ですでに奉納されたものを持帰り護符とした。より大きな木太刀を奉納することが誇 りだった。大山の開山期間は6月28日から7月17日朝までであり、6月25目に大山に向 けて発つものが多かったと記録されている。
  左は神田川の河口に位置した柳橋の料亭、八万楼。対岸の百本杭・御蔵橋も分かる。遠景は 筑波山の双耳峰である。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による