第58景 「大はしあたけの夕立」
(安政四年(1857)九月 夏の部)
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  「名所江戸百景」の最大傑作とされる作品である。ヴァン・ゴッホが模写した2枚の内 の一つでもある。また、従来から多数の識者により保永堂版東海道五十三次「庄野」と並 んで広重生涯での夕立の絵の双壁とされている。
  突然降始めた夕立の中をあたふたと駆ける人びと。川並は悠々と筏を操っている。 遠景の対岸に御船蔵が並んでいるので、浜町側下流から隅田川を隔て北東を描いている と分る。対岸右側には火の見櫓が雨に煙つている。上端の黒雲は一枚ずつ丹念に当てなし ぼかしの技がほどこされている。後刷りでは直線ぼかしになってしまった。雨の線には墨 色とねずみ色との濃淡2版あり、薄い方の線がやや細めである。
  橋板の薄墨色(手前の欄干の間)ぼかしは後刷りにはない。共同通信社版は存在は知ら れていても実際に見た人が少ない「幻の絵」だった。隅田川の対岸に2艘の船が描かれて いる、前述した橋板のぼかしがない、橋脚中央部に空白が見られる、など集英社版と異な る点が指摘される。初版の前の試し刷りとする説、後刷りとする説などもある。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による