第56景 「深川萬年橋」
(安政四年(1857)十一月 夏の部)
--------------------------------
  折井貴恵氏の分析「近景モティーフを画面一杯に描<『近像拡大図』をしばしば用いて、 竪絵の弱点でおる空間を埋めるとともに、奥行ある画面を作り上げている」の好例である。
  手前の明るい色の枠は手桶であり、後ろの暗い色は橋の高欄である。江戸では亀や鯉など を養殖し、橋のたもとで売る商売があった。買手は生き物を買取って放すことで積善とす る習わし、放生会(ホウジョウエ)があった。萬年橋では「亀は萬年」に因んで亀売りがいたら しく、「萬年橋で放す亀の子」という句がある。
  橋下を通過する船頭の上半身が見える。中景の隅田川は筏の他に、荷物運搬の船で賑わ っている。遠景は丹沢山塊を前にして富土山がそびえている。
--------------------------------
「東京シティガイド江戸百景グループ」による