第52景 「赤坂桐畑」
(安政三年(1856)四月 夏の部)
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  手前に桐の木を2本大きく配した。桐の葉と花柄も丹念に描いている。
  広い水面は溜池である。水面には蓮の痕跡が拡がっている。
  溜池の対岸に見えるのは日枝神社の別当寺で切絵図を見ると十か寺の名が記されている。 左手の巨木が茂る高まりは日枝神社が鎮座する岡である。ただし社殿は見えない。
  広重はこの画に人間を登場させていない。純然たる風景としての構図で見る人に理解を 求めているのであろう。広重得意の水として溜池があり、緑として山王の森と桐の葉が 大きい面積を占めている。夏空には雷鳴を予感させる黒雲が広がっている。不安を暗示 しているような光景だが、まさか「桐一葉落ちて天下の秋を知る」を広重が感じていた わけではないと思いたい。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による