第50景 「角筈熊野十二社俗称十二そう」
(安政三年(1856)七月 夏の部)
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  十方庵敬順の「遊歴雑記」には、本社は岡の上に南面し、松・杉・樅・柏などの古木 森々として人影も稀な閑寂の地であるとし、「夏日、熟しといへども、この深林に入れば 久しふして寒きがごとし」とある。また池については「西の方に古池あり、南北凡そ一町、 東西十余間、この池に昔よりジュンサイを生じて、風味にすぐれたり」とも記している。 これをふまえ、広重の風景版画研究者・森川和夫氏は、ホームページで「@境内西の方に ある古池を大きく描き、左隅、古木森々としたなかにやや控えめに本社を描いている。 全体の感じとしては、人影もまばらで、どちらかといえば寂蓼感漂う閑寂の地という敬順の 叙述通りである。A繁茂する樹木を取捨選択し、あっさりと仕上がっているが、樹木を取捨 選択するのは広重の常套手段である」と述べている。
  遠景の山について、ヘンリー・スミス氏は「南西にのびる台地の林」と推理し、菊地貞夫氏は 「大山であろう山並み」と想定するが、大山とするのは、他の百景に描かれた丹沢・大山の 表現と比較すると、いささか無理であろうか。
  手前の杉木立や遠景の山かげにはキラ(雲母)をいれた賛択な摺りに仕上っている。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による