第44景 「日本橋通一丁目略図」
(安政五年(1858)八月 夏の部)
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  広重は通一丁目の東側、白木屋呉服店から西川商店の間に焦点を当て、繁華街をゆく 江戸市民を描く。殆どの人物が傘をさしているか笠を被っているので、真夏の様子である。
  画面の中央、大きな二段になった傘の陰には大道芸住吉踊りの一行がいる。、 俗に言う「かっぽれ」の前身である。ヘンリー・スミス教授によれば、元来、 大阪の近くの住吉神社の田植え踊りから始まったものという。5人の踊り手の扮装は、 わらじ掛げ、茜木綿の前垂れに白木綿の手甲脚絆甲掛、菅笠をかぶり、青い長柄傘の頂きに 御幣を立てて、まわりには茜染の木綿を横に巡らすという独特のもので、長柄の竹を たたいて拍子を取り、唄い踊った。
  その後ろは三味線を抱えた女太夫。小さい人形で芝居の物まねをする人形使いの男と二人組 だったか。女太夫は木綿の着物を粋に着こなし、住吉踊り一行も木綿を着ており、背後には 木綿の衣類や布団を扱う問屋が多いので、木綿を共通因子として、広重は考えていたので あろうとヘンルー・スミス教授は「広重名所江戸百景」(岩波書店)で推察している。
  白木屋の隣がそば屋の東橋庵、その先が食傷新道の角で男が2人出てきたところである。 あと、日本橋の袂まで近江出身の蚊帳、布団の問屋が主に並んでいた。
  そば屋の出前持ち、マクワウリを食べる人、後ろ姿だけの女たちなど、笠や服装の異なる 多くの人が描かれ、江戸有数の盛り場の雰囲気が伝わってくる。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による