第37景 「墨田河橋場の渡かわら竃」
(安政四年(1857)八月 春の部)
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  春満開ののどかな風景である。隅田川をはさんで手前、今戸河岸のかわら窯あたりから 対岸の墨堤、小松島方面を見ている。窯からは瓦を焼く煙がたなびき、遠景には筑波山、 内川が見える。対岸には水神社の森と橋場の渡しが見え、後方には「墨堤の桜が満開でま るで横に長い綿のように見える。」(人文社本)
  橋場の渡しを2艘の渡し舟が行きかっている。水面はおだやかで都鳥が数羽、飛びかい、 また水面に憩っている。窯から立上る一条の煙が在原業平を始め、この渡しを行きかった 人々の旅情や寂蓼感を漂わせている。
  肉筆版画を問わず、隅田川を描く浮世絵で、堤防の上に鳥居の笠木が出ていれば、向島 の三囲稲荷だが、煙が立上っていれば、それは今戸焼の今戸の煙である。こうしたランドマーク によって、川の上下流、方角などがたちどころに判定できる。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による