第36景 「真崎辺より水神の森内川関屋の里を見る図」
(安政四年(1857)八月 春の部)
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  真先稲荷は千葉當胤の真先・先陣の高名を尊崇し家運の隆盛を祈る縁起のいい神社とし て庶民の信仰を集めていた。隅田川の景観も伴って江戸名所の一つとなっていた。境内に は茶店や料理屋が並び、そのなかでも最も有名な店が甲子屋で、この景色は甲子屋の二階 からの眺めであると云われている(人文社)。
  丸窓を遮断している白い障子と暗い室内のコントラストが巧みである。そして室内の椿 の花と窓外の梅の花を対比することで、この大胆な構図を粋で酒落たものにしている。丸 窓から見える景色は対岸の森の中に水神社の鳥居が見え、その左手には木母寺へ入る内川 が描かれている。川より先は関屋の里、その上方には筑波山が描かれている。季節は椿や 梅の咲く頃で、窓外中央に梅の花を配したことでこの目は初午の日と考えられる(ヘンリ ー・スミス)。境内や茶店は参詣客で賑わっていたと思われ、春とはいえまだ寒い隅田川 にも客を乗せた屋根舟が見える。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による