第35景 「隅田川水神の森真崎」
(安政三年(1856)八月 春の部)
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  手前には八代将軍吉宗が寺島村境から木母寺まで堤上に植樹を命じた桜や、その後補植 を繰り返した若木が成長して開いた桜花である。第101景「浅草田甫酉の町詣」の猫と同 様、桜の花びらに、表面を隆起させる極め出しの技法が用いられている。中景には南面す る水神社の社殿が描かれる。その上側、右に伸びた水面は内川の入口と分かる。手前の道 は渡場への道だ。ヘンリー・スミス氏と「暮らしの手帖」子は、橋場の渡船着き場への道と説き、 人文社子は水神の渡しとする。広重描く風景を観察すると、「江戸名所隅田川橋場の渡水 神の森」「東都名所隅田川渡場之図」ともに、水神の森と鳥居を下流側から眺めるが、船 着き場の位置状況も同様な構図であり、橋場の渡イコール渡場と捉えていることが分かる。こ れらの絵では水神の森と渡場との距離がやや近すぎる感じもないではないが、超望遠ズー ムで遠景をぐっと引き付ける描き方を思えぱ、不思議はない。遠景の筑波山も絵の中でど うしてもこの位置に必要である。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による