第34景「待乳山山谷堀夜景」
(安政四年(1857)八月 春の部)
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  隅田川の東岸、三囲神社の前から西側の真乳山と山谷堀を望んで描いた夜景。
  星空にこんもりと盛り上がった緑の山は真乳山である。昔はもっと背の高い山だったが、 この山を削り日本堤を築いたために背が低くなったと云う。頂上には聖天宮があり江戸の 庶民の信仰を集めていた。下に暗く山谷堀が見える。山谷堀に架かる今戸橋は渡る人より もくぐる人のほうが多いと云われ吉原通いの遊客たちで賑わっていた。絵にも猪牙舟が何 舟か山谷堀に近づいているのが見える。
  絵は闇の墨一色に塗りつぶされ、山谷堀の左右の船宿にともる明かりが印象的である。 葉桜のシルェツトで花の時期は過ぎていると分かるが、星明かりが川面に映り、星か桜の 花びらか判別しにくい幻想的な雰囲気をかもし出している。夜空には板目摺りが使われて いて、絵により趣きを添えている。手前の堤は提灯の明かりで明るい。堤にはこの提灯を もった下男に導かれて歩く一人の芸者が描かれている。「近くにあった料理屋平岩などで 夜桜見物の客を相手にした帰りの芸者とみられる。」(人文社)
  楢崎宗重氏によれぼこの女性は広重のひいきの芸妓小万をモデルにしたものだと言う。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による