第25景 「目黒元不二」
(安政四年(1857)四月 春の部)
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  近景に松の生え茂る富士塚、中景は富士塚下、茶店の床几と憩う人びとが描かれている。 遠景は目黒川を隔てた田畑、その向うに丹沢山塊。床几の周りの樹木を桜と見ると 確かに春の景色だが、使われている顔料は丹であり、通常紅葉に使用される。 床几に集う人びとの服装が厚着であることから、秋の観楓図と見る見方もある。 確かに富士塚中腹の二人は羽織に頭巾まで被っている。富±山が真っ白なのも 秋の図という見方と符合する。
  江戸末期にまとめられた「江戸近郊道しるべ」(村尾嘉陵著)には、文政3年(1820)3月の 訪問記として「この築山は、過し文化七年にきづきしと云、山の高さ凡四丈ばかり、 九折の道をつけて巓(イタダキ)にのぼる。山の南の裾に、直にたちのびたる松一木あり、 この外に何一つ木なし、巓より望めば、坤(ヒツジサル)に士峯、其左に大山、西北に 遠きは秩父、近きは府中、二子、登戸の辺山々、乾(いぬい)に武甲山(後略)」と記されている。 この紀行文は広重の構図そのままであり、風景を正確に描いていることがよく理解できる。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による