第16景 「干駄木団子坂花屋敷」
(安政三年(1856)五月 春の部)
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  林に囲まれた高台には、渡り廊下が付いた三階建てが建つ。これは「絵本江戸土産」から、 紫泉亭と特定できる。眺望を楽しむ人も8人が数えられる。その手前、源氏雲の向こうに 崖を上る急な石段状の坂が見え、途中に亭や石灯籠も配置されている。
 団子坂そのものは絵の中になく、絵の右側にあたる。
  源氏雲の下、近景は満開の桜を楽しむ人びと、子供連れもいる。多くの床几がしつらえられ、 休む人、座って桜を愛でる人などが描かれている。
  手前の水面については、谷底を流れる藍染川という説もあるが距離的に遠く、また川沿いに 桜があったとの記録もないので、花屋敷の園庭にあった花菖蒲の池と考えるのが妥当であろう。 明治9年(1876)の「明治東京全図」では、このあたり崖下に池や水路が存在するそうだ。 花菖蒲の池や小川の名残であろう。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による