第11景 「上野清水堂不忍ノ池」
(安政三年(1856)四月 春の部)
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  江戸名所図会には、清水観音堂は「京師清水寺に比して舞台造なり。この辺ことさらに 桜多し」とある。上野の山は、江戸一番の桜の名所であった。天海僧正が、大和(奈良)の 吉野山と同じように桜見物ができる場所にしようと、咲く時期の異なる吉野桜、山桜、 八重桜などを植えたので桜の花が絶えることがなかった。広重の絵も期待に違わず、 舞台の前後に数多くの桜が描かれている。
  舞台からは、不忍池、中島弁財天、本郷台地の大名屋敷を一望できた。道の両側に茶屋 らしきものが見られる。堂の向かいには奇妙な枝振りをした松の木があって、人々の目を 惹いていた。不忍池は「有田屋版江戸名所不忍池」「山本版東都名所上野不忍蓮池」など 広重が好んで描いた題材でもある。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による