第10景 「神田明神曙之景」
(安政四年(1857)九月 春の部)
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  東の空も上空はまだ半分うす闇が残り、冷たい清冽な空気が画面から感じられる。画面 の3人は、岩波本ヘンリー・スミス氏の解説では、「左手から神主、巫女、召使で朝の巡回を始めた ところ」。人文社の「百景散歩」では「正月元旦の早朝若水汲みの儀式を終えた神官・巫女・ 下男」としている。馬頭町広重美術館図録では三人を「神主・巫女・仕丁」とする。
  シンプルな画面だが、ぼかしの技法が空、地面、神主の水干に効果的に使われており、 右二人の着衣の白い部分は布目摺りが施されている。
  広重がどの地点から描いたか。画面右側は本殿前にあった湯立所の玉垣である。湯立所 ではお湯を使った占いが行われたという。本殿と湯立所の間に木立があったことは神田明 神を描いた他の浮世絵や、江戸名所図会からも読取れる。
  茶屋のよしず張りと縁台が崖縁に並んでいる。柳原土手の柳並木が右に描かれている。 広重は本殿前の湯立所付近、かなり崖端に近い場所に立って描いたと思われる。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による