第9景 「筋違内八ツ小路」
(安政四年(1857)九月 春の部)
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  広重の画面は実に広々としているが、誇張ではない。中央の小屋は昌平橋たもとの辻番 所、その横で土手が切れているところが、昌平橋である。松や柳の植えられた柳原土手の 向うにたなびく雲は神田川の谷の深さを現している。遠景右手の奥が台地上に神田明神、 第10景でも描かれていた茶屋の屋根組みが見える。この絵で面白いのは、八ツ小路の主人 公である筋違御門が描かれていないことである。南詰の立派な枡形櫓門から筋違橋が、現 在の昌平橋と万世橋の中ほどで神田川を渡っていた。画面の右外に当る。
  近景で横切る行列は女乗物を中心としたかなりの人数であり、大名家の奥方一行と思わ れる。右手前にはよしず掛の掛け茶屋がある。左奥は天野弥五右衛門という旗本の武家屋 敷である。通行人も仔細に観察すると、駕籠屋、天秤の振売り、振分げ荷姿、武士など様々な職業が見て取れる。
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による