第7景 「大てんま町木綿店」
(安政五年(1858)四月 春の部)
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 紺暖簾の屋号は手前から田端屋、升屋、嶋屋である。田端屋は先述の 「東京持丸長者鏡」では関脇の地位にある大店である。
 広重は本町側から東を向いて描いている。店は長屋造りで同業者が軒を並べているが、 これは大伝馬町独特のものという。田端屋の暖簾が少しまくり上げられ、店内に商品が 積み上げられた様子がうかがえるが、土蔵造りの耐火構造であり、屋根には天水利用の 防火用水もあるため、店の脇に土蔵を持たないのであろう。大火がしばしば発生した時代には 商人は商品の保全を優先しなければならないため、当時の商店は店の脇に土蔵を持ち、客の 求めに応じて商品を土蔵から出して販売していた。店頭に商品を並べた状態で火事に遭う 危険を避けるためであった。
 店の前に芸者が二人、供の小女を連れている。この場面をヘンリー・スミス教授はこう表現している。 「近くの大店で三味線の余興を披露した帰りでもあろうか。座敷で酒がふるまわれたのであろう。 着物にも足どりにも乱れが感じられる。」
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「東京シティガイド江戸百景グループ」による